試着する話

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試着する話

 僕の妻は以前、子供服の店に勤めていた。  妻はレジ打ち、接客、仕入れ、展示会など……いろんな仕事をしていたそうだ。  お客さんは基本、女性が多い。  ママさんたちやおばあちゃんが買いに来るらしい。  男性は皆無で、せいぜい子供ぐらいだ。  だが、時に成人の男性が来店することもあったそうだ。    僕が妻に聞いた。 「なにをしにくるの?」 「ん? 試着だよ」  僕は耳を疑った。 「試着ってなにを着るの? 子供服でしょ?」 「フツーに着るよ」 「え……」  嫌な予感が走る。 「まさかと思うけど、女の子の服?」 「そうだよ」 「……」  妻の話を詳しく聞くと、特に店へ危害をあたえる人ではないらしい。  中年のハゲたおっさん。  女児服を着て、試着室から声をかけてくるらしい。  妻が「またあの人か」と思うと、試着室に入る。  そこにはピッチピチになった夏物のブラウスと、スカートを履いたおじさんが。  太っていて、毛深く、試着した服は伸びてしまい、汗でビショビショになっている。  そして、必ず妻にこう言うらしい。 「店長呼んで」 「ハイ、わかりました」  妻も最初は驚いたようだが、もう常連らしく、慣れた感じで責任者である店長(女性・20代)を呼ぶ。  すると店長は顔をしかめて、「ああ、あの人」と言って、試着室に向かう。  僕はそれを聞いて、ふと不思議に思う。 「試着室で一体ナニを見てもらうの?」 「フツーにサイズを確認しているらしいよ」 「サイズを確認するまでもないじゃん」 「とにかくお客さんだから、毎回店長はチェックしているよ。それに店長じゃないとダメみたい」    そして、そのお客様はなにも買わずに、ビショビショになった服を置いて帰るらしい。  僕は思った。  その脱いだ服は、別の女の子に売られていたのだろうか……と。  
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