Mamma Mia!

トドかアザラシか

最近母がタブレットPCを手に入れた。
ネットで延々とドラマを観ている。
丸々と肥えたお腹やお尻。
いつ見てもグレーのスエットの上下。
二重あごにすくんだ首。
床にゴロゴロしている姿はまるでトドかアザラシみたいだ。
そんな母をかわいいと思うこともあるが、わたしが四十路になってもこんな姿にはなるまい。
いや、なるのかな？
よる年波には勝てないって言うし。

そんな母を横目に、わたしは買ったばかりの靴をおろして玄関を出る。

「出かけてくるね」

母は片手を上げて「行ってらー」といつものようにわたしを送りだし、またドラマに見入っていた。

夕方、お土産のシュークリームを渡して母が喜ぶ顔を見ようと思ったら、何か様子が変だ。

いつもの毛玉だらけのスエットからよそ行きのチュニックに着替えている。

「どっか行くの？」

「どこも行かないよ」

「じゃ出かけてたの？」

「出かけてないけど」

誰か来てたのかなと思いつつ、それ以上聞くのもめんどうで、わたしは自分の部屋へと戻った。

でも思えばこの時を境に、母の様子は少しずつ変わり始めていたのだ。