8.伝えたい気持ち

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ーー『もっと堂々とお前と一緒にいたいんだ』。 昨夜、先輩が俺に言ってくれた言葉を改めて思い出す。 俺も全く同じ気持ちだ。 この言葉を、気持ちを、誰かに伝えたい。なるべく多くの人に。 こんな風に思うのは初めてで、SNSで自分の想いを発信する人達の気持ちがようやく分かったかも、なんて。 ……そうだ。たとえ偽物のインフルエンサーだとしても、俺にはSNSがあるじゃないか。 それに、そんな俺にだから出来ることもあるはず。 俺はズボンのポケットに入れていたスマホを取り出す。 「志衣?」 「……俺、インフルエンサーのフリをして色んな人をずっと騙してきました。そんな俺が偉そうなことを言う資格はないのは分かっています。……だから、本心を一言だけ発信します」 そう言って俺はーー今までは梓さんに任せきりで自分では一度も使ったことのないSNSに、文字を打ち込んでいく。 【好きな人がいます。】 初めて自分で呟いた、紛れもない本音だ。 たったこれだけの文章だが、緊張しながら送信ボタンをタップし、すぐにスマホをズボンのポケットにしまい直した。 「何を書いたんだ? まあ、俺も後で見るけど」 「秘密です」 笑ってそう答えて、俺は先輩の片手を握る。 「さあ、行きましょう」 「そうだな」 ーー世の中に、自分の全てを曝け出す必要はないだろう。 でも、少しずつ前に進めていけたらいいな。 そうしていつか、自分のことを理解してくれる人が僅かでも増えたら嬉しい。 先輩と手を繋ぎ合いながら、そんなことを思ったーー。
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