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ソファに座ってコーヒーを飲みながら、先輩はそう言ってクスッと笑った。
「そ、そんなことないですよ。俺は元々、SNSへの興味すらほとんどないんですから」
「そうか? 本気でやってみたら案外本物になれる気がするぞ」
「……か、」
「ん?」
「……か、考えておきます。なんて……」
照れ臭さ全開でそう答えると、先輩はまた笑った。
そんな先輩に、俺は言葉をつづける。
「でも俺は、今はインフルエンサーのことよりも、美容師の仕事関係の資格を増やしたいと思っているんです」
「資格?」
「店長が、店を拡大させてネイルサロンを併設する計画を立てているんです。そうなったら従業員も増えるだろうけど、俺もネイリストの資格が取れたら仕事の幅が広がるかなって。自分に出来ることが増えて、店長にも恩返し出来たら、それって最高じゃないですか」
そう伝えると……先輩は「志衣らしいな」と優しい声で答えた。
そしてーー先輩の右手が俺の前髪に触れたかと思うと、額にちゅっと軽くキスを落とされた。
「な、何ですか。急に」
「志衣のそういうところが好きだなと思ったらキスしたくなった」
「もう……」
こっちは恥ずかしいんだから、不意打ちはやめてくれ……。
「あ。またフォロワー増えてる」
スマホを見ながらそう言うと、先輩も俺の手元を覗き込み「本当だ。凄いな」と答える。
ーー大きい数字であるフォロワー数を見ながら、俺は思う。
どんなに多くの人が自分を見ていても、その目を怖がる必要なんてない。何も悪いことはしていないのだから。
先輩と再会出来て本当に良かった。たくさんの大切なことに気付けたから。
「先輩。これからもずっと一緒にいましょうね」
「どうした? 急に」
「たまには甘えてもいいでしょ?」
「もちろん」
……あなたは俺にとって本当に大切な、初恋の相手です。
これからも、どうぞよろしくお願いしますーー。
完
番外編に続く
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