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すると、お母さんも笑顔でこう続ける。
「そうよ。寧ろ志衣君には感謝しているの。之隆が怪我でサッカー部を退部したことは知っていると思うんだけど、その頃は毎日表情も暗くて、口数も少なかったの。だけどしばらくして、どこか楽しそうな顔で学校に行くようになったから事情を聞いたら、仲の良い後輩が出来たからって言ってね。志衣君のお陰で、私も主人も本当に安心出来たのよ」
「あ、安心だなんて……。俺の方が、高校生活は先輩に救われていたんです。先輩がいなかったら、高校を辞めていたかもしれませんし……」
そう。俺はそんな風に誉めてもらえるような人間じゃない。昔も今も、俺の方が先輩に支えてもらっている。
「あはは。之隆は昔から案外、面倒見が良いからな」
「ふふふ、そうね。何にせよ、お互いが支え合っていてとても素敵な関係だと思うわ」
どこまでも和やかに話をしてくれるご両親に、俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ぼ、僕はまだまだ未熟で、先ぱ……之隆さんにたくさん迷惑を掛けています。でも、男同士とか関係ないくらい、一人の人間として之隆さんのことが好きなんです。僕も、これからもっと成長出来るように頑張りますので、之隆さんとの関係をお許しいただけますか……?」
膝の上でグッと握り締めた拳の中は、緊張による手汗で濡れていた。
俺の言葉を聞いたご両親はーー。
「許すも何も、こちらこそ之隆をよろしく頼むね。志衣君」
「私も主人と同じ気持ちよ。志衣君、またいつでも家に遊びに来てね」
二人の優しい言葉に、思わず涙が出そうになるのをグッと堪えた。
「はい。ありがとうございます!」
緊張が一気に解れ、身体中が幸せな気持ちで一気に満たされたのだったーー。
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