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さすがに苦しいかと思いながらも、俺はとにかく必死で初対面を装った。
だって、二人きりの時ならともかく、今ここには暖也がいる。
暖也の前で、高校の時に俺と付き合ってたことを話されそうになったから、それはマズい!と思ったのだ。
すると先輩は、ゆっくりと口を開くとーー。
「……はい、初めまして。坂野さんがうちの商品をよく着てくださってる関係で最近の売り上げが非常に好調でして。いつかお礼に伺いたいと、本社でもよく話題に」
……と言って、俺に合わせてくれた。
「お、お礼なんて、あはは……。あ、お仕事の邪魔したら申し訳ないので、俺はこれで失礼します……っ」
俺は早口でそう言うと、暖也と須藤先輩にくるっと背を向ける。
……しかし。
「ああ、待って」
という先輩の声と共に、後ろからガシッと肩を掴まれる。
ゆっくりと振り向くと、先輩がクールに笑いながらーーこう言った。
「坂野さん、この後、少し時間あります? せっかくなので、インフルエンサーの着眼点から色々ご意見聞きたくて。昼食を一緒にどうですか?」
「え、いや俺は……」
「ね?」
……笑顔なのに、妙な圧を感じる。俺が他人のフリしたから怒っているのだろう。
もしかして、ここで断ったら暖也の前で俺達の関係を話す可能性も……ある?
「よ、喜んでぇ……」
関係をバラされるわけにはいかなかったので、俺も笑顔でそう返事するしかなかったーー。
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