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ーー…
その後、ショップに隣接しているカフェで先に待っていてほしいと先輩に言われた。
分かったフリをして逃げてしまおうかとも当然考えたが、結局それも出来ず、言われた通りカフェに足を運んでしまった。
店員に案内された窓際の二人用席に腰掛け、アイスティーを飲みながら先輩が来るのを待った。
すると仕事を落ち着けた先輩が、案外早く店内へ入ってきた。
「待たせて悪かったな」
そう言って俺の正面に座った先輩は、注文を取りにきた店員にコーヒーを頼むと、改めて俺に向き直り……そして、「久し振りだな」と言ってきた。
動揺しまくりで冷や汗を掻いている俺とは対照的に、先輩は相変わらずクールな様子で、その思考は読み辛い。
「お、お久し振りです……」
何とか無理やり笑おうとするが、どうしてもひきつった顔になってしまう。
「あ。さっき話した、本社でお礼したいっていう話は本当だから。多分後日、担当部署から連絡すると思う」
「は、はぁ……」
あ……話したいことって、本当に仕事のこと?
てっきり、もっと深い話をするのかと思った。
それなら、適当に相槌を打って早く会話を終わらせて、このアイスティーを飲み終えたタイミングで店を出よう。
……先輩のことは、今でも大切な存在だ。
だけど、会いたかったわけじゃない。元気に過ごしてくれているならそれだけでいいんだ。
再会したらしたで予想通り気まずいし、さっきから心臓がバクバク暴れていて、ゆっくり話せそうになんてない。
しかしその直後、先輩は俺の心臓を更に掻き乱す発言をしたのだった。
「ーーでも、あのSNS更新してるの、志衣じゃないだろ」
「っ⁉︎」
口に含んだアイスティーを思わず吹きそうになった。
先輩は、発言の前に辺りを見回して誰も近くにいないのを確認して、尚且つ声を顰めてそう言ってくれたので、今の言葉を誰かに聞かれた心配はない。
……でも、まさか先輩に見抜かれていたとは。
いやいや、驚いている場合じゃない。誤魔化さなくては。
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