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「志衣?」
先輩から名前を呼ばれ、ハッと我にかえる。
「す、すみません。何でもないです」
「そうか……?」
すると、様子のおかしい俺を不審に思ったのか先輩は話題を変えてくれる。
「そう言えばさっきのことだけど、せっかく久し振りに会ったのに、何も他人のフリすることはないだろ。もちろん、再会を喜べとは言わないが」
「あ……だ、だって、暖也の前で俺達の関係を知られるわけにはいかないでしょ。先輩、俺達が高校時代に付き合ってたってことをあっさりバラそうとするし……」
「は? バラすわけないだろ。さっきのは〝高校時代の後輩だった〟って言おうとしただけだ」
「え?」
あー……そうか、なるほど。俺はてっきり……。
「ったく。俺はそこまでデリカシーなくねえよ」
「で、ですよね……!」
よく考えたら、先輩の優しさは高校時代と変わっていないことが分かったばかりじゃないか。それなのに俺は、先輩を疑うようなことを言ってしまった。
しかし先輩は怒る様子もなく、こう続ける。
「まったくお前は。普段は落ち着いてるのに、テンパると天然入るとこは変わらないな」
そう言うと、クールな表情を少し崩し、フッと笑った。
ーー先輩のこの笑顔も、昔と変わってない……。
時々見るこの笑顔が、大好きだった……。
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