1.ほろ苦い思い出

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「や、やめてくださいって。そう呼ぶのは」 身近な人にそう呼ばれると、反応に困る。 謙遜しているのとは少し違う。だって俺は、所詮〝偽物〟なのだから。 半年程前に、とある事情で開設した俺のSNSのフォロワー数は、現在一万人ちょっと。 百万人以上フォロワーのいるトップインフルエンサーの人と比べたら足元にも及ばないが、今の俺は一応、マイクロインフルエンサーと呼ばれる部類らしい。 と言っても、俺自身は実はSNSに興味はない。 半年前、店の買い出しで梓さんと一緒に街を歩いていたら、とあるメンズファッション雑誌のスナップ撮影で声を掛けられた。 あまり気乗りはしなかったが、一緒にいた梓さんが面白がって撮影を許可。 まあ読者層のスナップ撮影くらいなら特別珍しいことでもないし、俺も撮影に応じた。 その写真は、予定通り後日、雑誌内のスナップ撮影コーナーに一枚だけ載った。 特別目立つ写真ではなかったが、この世の中、何がきっかけでどうなるか本当に分からないーーそう、たまたま雑誌に載ったその一枚が【この人かっこいい】、【一般人にしておくのもったいない】などというコメントと共に、SNSで拡散されたのだ……。
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