第一章 犯人からの電話

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「リリさんが誘拐された日のことを、順を追って教えていただけますか」  問いかけを進めると、セラノはミオリを見た。その視線を受けて彼女が話し始める。 「いつも通りの朝でした。夫は先に家を出ていたので、リリを家から見送ったのは私だけでした」 「それは何時頃ですか?」 「学校がある日は、毎日七時三〇分に家を出るので、あの日もいつも通りに」  俺が頷いたのを見て、ミオリが話を続ける。 「九時ごろに、まず学校から電話がありました。リリが登校していないので、どうかしたのかと。それで、家からはいつも通り出たことを伝えると、学校の先生がたがリリを探し始めてくださいました。私は、リリが帰ってくるかもしれないので、家に待機していました」 「わたしの方にも、リリがいなくなったとミオリが連絡をくれて、すぐに家へ帰ってきました」  そう、セラノが言葉を加える。 「通学路のどこにもリリはおらず、警察に連絡したほうが良いかもしれないという話をしていた午後二時ごろに、家に犯人から電話がありました」 「リリさんを誘拐した、という内容の電話ですね?」  問いかけると、ミオリが頷く。 「その電話を取られたのは、セラノさん、ミオリさん、どちらですか?」  「私です」と、これにもミオリが返事をする。 「言われた内容を、できるだけ忠実に思い出せますか。また犯人の声は、どんな調子でしたか。男か、女か等はわかりましたか」  ミオリは少しだけ悩むように眉を寄せてから。口を開く。 「声は、何かの機械を通しているような感じで、男女も良くわかりませんでした。複数の人間が同時に同じことを喋っているような、そんな感じで。喋り口調は淡々とした様子でした。内容は『娘のリリを誘拐した。返して欲しければ一〇〇〇万イェロを用意しろ』というのが第一声だったと思います」 「ミオリさんはどういう反応をしましたか?」 「咄嗟のことだったので、かなり慌てました。それで……娘は無事ですか、とか、どこにいるんですか、とか聞いたのですが」  「返事は?」と問いかけると、ミオリは首を横に振った。 「『金さえ渡せば、無事に帰すことを約束する』とか、そんなことを言って、すぐに切れました」  ミオリの説明は、すべてノラが言っていた内容と合致する。 「つまり、リリさんの声を聞いたりはしていないんですね?」  「はい」とミオリは頷いて、説明を終えた。 「その後すぐに警察に電話をして、ノラさんが家まで来てくださったんです」  セラノが続け、ノラがコクンと頷く。娘を誘拐されて、連絡した警察からやって来たのがこの一五歳のノラだとは。  人を見た目で判断してはいけないとは言うが、ノラを見た時の、夫妻が抱いた不安は凄まじかったのでは、と思う。だが、夫妻のノラへの態度を見る限り、彼女はしっかりと信頼を勝ち得たようだ。どのように納得させたのかは、わからないが。  俺はその後も細々とした聞き取りを行い、話を終えると、三人を残して廊下へ出た。  携帯電話を取り出し、サイチに電話をかける。すぐに応答した彼へ、手短にコン家の電話番号を伝える。 「もう間もなく電話がかかってくるはずだ。逆探知頼んだぞ」  改めて念押しすると、電話越しに、鼻で笑う声が聞こえた。 『逆探知なんて、そんな神妙にするほど、たいしたことじゃないんで』 「頼もしいな」  本心でそう告げたが、返ってきたのは言葉ではなく、通話が切れる無機質な音だった。  と、ちょうどその時、リビングの方から着信音が響く。  俺はすぐさま部屋の中へと戻った。
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