一 悩めるアーチストとしじみの味噌汁

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「落ち着くな。いててててて」  しばらく忘れていた二日酔いの頭痛が不意に戻ってくる。頭を押さえて床に転がっていると、お盆を持った千冬が台所から戻って来る。 「はい、どうぞ。そして、いただきます」  ちゃぶ台にめかぶ納豆、海苔、玉子焼き、そしてふっくら艶々な白米と味噌汁が並べられると千冬はためらいなく手を合わせる。 「おい。俺が苦しんでるのに無視か! それにお前、さっき口にご飯粒を付けてただろう。まだ食うのか」  手を合わせて、さっそく箸を持った千冬に不破は抗議の声を上げる。けれど、千冬は箸を置くことなくご飯を一口食べて首を傾げる。 「さっきのは味見です。ほら、冷めてしまいますよ?」 「二日酔いがひどいんだよ! クソ、あれくらい飲んでも今までは何ともなかったのに」  これも体調不良のせいなのかと、不破は大きく舌打ちする。 「トレーナーの方には相談していないんですか」
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