あたしと一夜漬けの朝

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 あさ、眼をさますときの気持は、面白い。  まったくその通り。うっかりうたた寝してしまっていたようだけど、面白いくらいに最低な気分。(まぶた)は重量挙げのバーベルのように重たいし、身体中が気だるくて頭痛もひどい。珈琲(コーヒー)の飲みすぎで心なしかお腹の調子も悪いみたい。  大きく深呼吸をしたあとで、ふと窓の外を眺める。あたしの身体中の虚脱感が伝わったかのように薄ぼんやりとした夜明けの空がひろがっていた。  やるだけのことをやったとはいえないけれど、もうこれ以上は限界。あたしはあたしなりに頑張った。ノートを丸写しさせてもらったプリントの山。覚えたか覚えてないかは置いておいて、一応は全部に目を通すことはできた。  ──四時間後にはあたしは教室にいて、そして期末テストがはじまる。  「needless to say」に「エカチェリーナ二世」くらいは書けるだろう。ううん、それだけじゃ足りない。なんとか赤点だけは避けねばなるまい。  まだ闘いははじまったばかり。でもきっと大丈夫。あと二日間耐えきれば、冬休みが待っている。  もう少しだけ、がんばれ……頑張れあたし。  ……やっぱりもう少しだけ仮眠をとろうかな。  いいや、待て待て。そんなことをしたらこの大切な記憶の欠片たちが吹き飛んでしまう。そう、まるで寒空のしたの木枯らしが地面に落ちた枯葉たちを吹き散らすかのように、いとも簡単にたやすく。  これからはじまるのは夜明けの物語。  あたしのあたしによるあたしのためだけの闘い。  ──寝るな、前を向け。  あわよくばあとひとつくらいの“英単語”と“年号”を。  ……そ、それは無理だ。  忘れないうちに鞄にテキストとプリントをしまっておこう。テストがはじまる数分前にきっと神様のお告げが舞い降りる。直前に開いたページの「英熟語」や「哀れにも誰かに滅ぼされた国の名前」がそっくりそのままテストに出てくるに違いない。  国破れて山河あり。  その山河をあたしがなんとか越えてゆく。  あたしはわずかに残された力を振り絞って鞄を開ける。満身創痍とはこのことか。深夜零時からはじまったこの闘いも初夜を明けようとしている。初夜だなんて言ったら、まるで頬を赤らめた十二単の女官の吐息が聞こえてきそうだ。  テストが終わったらすぐに帰ろう。夜ごはんまでのあいだは泥のように眠りにつこう。そしてまた零時からはじまる第二夜にむけて英気を養おう。  ひと通りの準備を終えて、思いっきり背伸びをする。両腕を天井に向けて大きく広げて「ん〜っ!」と声が漏れる。  ふと「期末テストのおしらせ」と書かれたプリントが床に落ちているのを見つける。  おっと、いけないいけない。  きっとさっき鞄から抜け落ちたんだ。ナマケモノのようにゆったりとした動きでもう一度鞄をあけ、プリントをしまおうとする。  ──そのとき、衝撃のあまり言葉を失った。  今日のテストは数学と生物だった。
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