空翔ける馬、と成功報酬

5/6
前へ
/67ページ
次へ
「……僕の話、ぜんぶ信じてくれた?」 「信じるしかないだろ、こんなの」  まだ心臓がどきどきしていた。夢を見ているみたいだ。まさか〈物語〉の中に入るなんて! 「……じゃあ、僕を助けてくれる?」  助ける――物語の輪郭を変えるとか言っていたっけ。本当にそんなことができるのだろうか。 「……それって、俺に身の危険はないわけ?」  重要なことを尋ねると、ライラが暗闇の中でぎくりとする。――やっぱりな。そう簡単に物事が進むわけがない。 「えっと……僕もそばにいるし、あとジンも手助けしてくれると思うから……」  ライラが焦りを顔に浮かべる。なるほど、それでも危険ってわけか。とは言っても、ここまで聞いた後でライラを突き放すのはさすがに可哀想だし。 「じゃあ、ご褒美をちょうだい」 「ご、ご褒美?」  ライラが長い睫毛をしばたたかせる。そんな不安そうな顔も可愛い。可愛いのでもう少し困らせてやる。 「うん。成功報酬。もし俺が〈物語〉を変えることができたときには、俺の欲しいものをくれる?」 「えっ、な、何? どんなもの?」 「キス――よりももっと、」  そう試しにそう言ってみる。暗がりの中なのに、ライラの顔が真っ赤になっていくのが見える気がした。 「ええ……本気で言ってんの?」 「だってこっちは命懸けなんだから、ライラも俺のために大奮発してくれないと」  少し意地悪を言ってみると、ライラは、あの、だの、その、だのと口籠もっている。 「リュカはさ……その……そ、そんなことで、いいの? たしかに僕が君にあげられるものなんて、他に何もないけど」 「別にいいよ。他に欲しいものなんてないし」  そう言うと、またライラの顔がぼっと真っ赤に染まる。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加