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「……僕の話、ぜんぶ信じてくれた?」
「信じるしかないだろ、こんなの」
まだ心臓がどきどきしていた。夢を見ているみたいだ。まさか〈物語〉の中に入るなんて!
「……じゃあ、僕を助けてくれる?」
助ける――物語の輪郭を変えるとか言っていたっけ。本当にそんなことができるのだろうか。
「……それって、俺に身の危険はないわけ?」
重要なことを尋ねると、ライラが暗闇の中でぎくりとする。――やっぱりな。そう簡単に物事が進むわけがない。
「えっと……僕もそばにいるし、あとジンも手助けしてくれると思うから……」
ライラが焦りを顔に浮かべる。なるほど、それでも危険ってわけか。とは言っても、ここまで聞いた後でライラを突き放すのはさすがに可哀想だし。
「じゃあ、ご褒美をちょうだい」
「ご、ご褒美?」
ライラが長い睫毛をしばたたかせる。そんな不安そうな顔も可愛い。可愛いのでもう少し困らせてやる。
「うん。成功報酬。もし俺が〈物語〉を変えることができたときには、俺の欲しいものをくれる?」
「えっ、な、何? どんなもの?」
「キス――よりももっと、濃厚なこと」
そう試しにそう言ってみる。暗がりの中なのに、ライラの顔が真っ赤になっていくのが見える気がした。
「ええ……本気で言ってんの?」
「だってこっちは命懸けなんだから、ライラも俺のために大奮発してくれないと」
少し意地悪を言ってみると、ライラは、あの、だの、その、だのと口籠もっている。
「リュカはさ……その……そ、そんなことで、いいの? たしかに僕が君にあげられるものなんて、他に何もないけど」
「別にいいよ。他に欲しいものなんてないし」
そう言うと、またライラの顔がぼっと真っ赤に染まる。
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