真夜中、キスと交換

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真夜中、キスと交換

 河沿いにある古い貸本屋のドアを叩いた。ノックを三回。空白を入れて、もう二回。すっかり閉店時間は過ぎているが、しばらくすると鍵を開ける音がした。 「……ああ、久しぶりじゃな、リュカ。今夜は泊まっていくかい?」  長い白髭を生やしたジョルジュ爺さんが、ランプ片手に顔を出す。皺の深い顔、折れ曲がった腰、古木の枝のような手足。明るいブルーの瞳だけは、子どものように澄んでいる。  小さい頃は本物の魔法使いだと思っていた。いまでも少しそう思っている。 「……うん。あの、泊めてもらってもいい?」  そう言いながら、隣に立つライラに目をやった。ジョルジュ爺さんはここにいるはずの女装少年には声をかけず、ふたたび店の奥へと戻っていく。  ――こんなに場違いで派手でエロい格好をしている奴を連れてきたのに、ツッコミひとつ入れないわけ?  暗い店の中は古ぼけた本の山。倒さないように気をつけながら店の奥に足を踏み入れる。  ここにライラを連れてきたのは、〈ふつうの人に僕の姿は見えない〉というさっきの言葉が、本当かどうか確かめたかったから。――でもこの無反応、まさか本当に見えてない? 「……ねえ、爺さん」  レジの奥まで来たとき、ジョルジュ爺さんを呼び止めた。ランプを掲げた爺さんが、ゆっくりこちらに振り返る。 「今日は友達を連れているんだけど」  するとジョルジュ爺さんの落ち窪んだ両目が、ふとライラのいる方に逸れた。ぼんやりとそちらを見つめながら、細かい瞬きをする。 「……爺さん、こいつも一緒に泊まってもいい?」  そう尋ねると、ジョルジュ爺さんははっと我に返ったような顔をした。リュカの顔を見上げ、照れ臭そうに微笑む。
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