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夜空から降る、ライラ
頭の中に、物語を描く。
空翔ける馬。魔法の絨毯。月夜の王宮。肌も露な女奴隷。
悪巧みをする魔神。墜落する彗星。男を惑わす人魚の歌。
「……ああっ、はぁ……んんっ、気持ちいい……お願い、もっと奥まで」
空想のあいまに、甘い声で喘ぐのを忘れずに。
腹の上では、太った禿げオヤジが夢中で腰を振っている。こんな最悪の光景、現実逃避でもしなきゃやってられない。
海の中に引き摺り込まれる。弾ける泡の音。鈴を転がす笑い声。
海底に広がる王国。とぐろを巻く海蛇。夜通し続く酒と宴。
巨大な月が降ってくる。星々も豪雨のように。
降り注ぐ金の雨。美しい異国の女たち。甘ったるいキスと抱擁――
「――おい。手抜きすんな、リュカ。チップ減らすぞ」
気づけば脂ぎった禿げオヤジが腰の動きを止めていた。――しまった。現実逃避が過ぎたか。
「……ごめん、気持ちよすぎてつい、ぼんやりしちゃった」
可愛く舌を出してみたが、禿げオヤジに頭を叩かれた。不機嫌な顔のまま俺の上から降りる。
「……もうやめんの?」
「まったく興醒めもいいところだ。お前、もっとやる気出さないと客失うぞ」
「やだなぁ、そんなにへそ曲げないでよ。ごめんってば。いつもよりサービスするからさぁ」
とびきり甘い声を出し、毛深い腕に抱きついてみたが、また頭を叩かれた。
――ああもう最悪!
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