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言われてみれば、俺には欲がないのかもしれない。金が欲しいとか、いまの生活を抜け出したいとか、望むべきものは他にいくらでもある気がするのに。
――いや、違うか。俺はきっと〈この世界〉を生きることにあまり興味がないんだ。
「……でも、リュカ。の、濃厚なことって、たとえばどんな?」
ライラがもじもじと不安げな声を出す。
「そりゃあもう、『いやん。これ以上したら、死んじゃう』ってライラが泣きながら懇願するようなことを一晩中――」
ひえっ、とライラが裏返った声を上げた。
「……そんなに辛いの?」
「辛くない。気持ちよくする。気持ちよすぎて辛いくらいにする。ああ、嘘。全然辛くないから安心して気持ちよくなって」
ライラが不審げな目で俺を見ている。
「そういうの、経験ないわけ?」
「……全然ないよ。だって僕、すぐに殺されちゃうもん」
そうか。じゃあライラは処女……いや、童貞……まあどちらでも同じか。
そのとき、唐突に気づいた。
……ぜんぶはじめてということは、つまり?
「もしかしてさっきのって、ライラのファーストキス?」
訊ねると、ライラは慌てて布団を頭からかぶった。
――嘘だろ。まさかこんなに可愛い子の初めてをいただいてしまうとは。
「……ごめん。じゃあ嫌だった?」
「……い、嫌じゃないよ、別に。僕の方からしたんだし」
布団の奥から、もごもごとした声。ライラは布団からちらりと頭を覗かせ、暗闇の向こうから俺の顔を見つめた。
「……リュカならいいかなって、僕もちょっと思ったから」
どうしよう。さっきからライラが可愛すぎて、俺の方が辛い。
ちゃんと付き合えないかな。でも俺なんかじゃ嫌かな。そもそも人間と物語の登場人物がふつうに付き合えんのかな。
「じゃあ交渉成立ってことでいい?」
訊ねるとライラはコクリと頷いた。
――脈アリって思っていいのかな。もしくはそうまでしても物語の輪郭を変えたい、か。
ライラの額にチュッとキスを落とす。ライラは、もおっ、っと文句を言い、また頭から布団を被った。
惚れた弱みってやつだな。好きな子の頼みなら命を懸けちゃうのが男ってもんでさ、って、ライラも男だけどね。
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