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闇の魔王、星空のカーテン
布団の中で両手を繋ぎ、ふたりで目を瞑る。
俺が忽然と部屋から消えたら心配するかと思い、ジョルジュ爺さんに置き手紙を残した。
〈新しくできた友人と、しばらく旅に出ることにしました。マリエルには仕事休んでごめんって伝えておいて。みんな、愛してるよ。リュカ〉
心の準備はいい?と、暗闇にライラの声がする。
「じゃあ、世界を救いに行きますか」
そう言うと、ライラはくすりと笑った。
ふいに、足元が抜けた。強い引力に全身が引っ張られる。身体の輪郭が結合を解いていく。
霧散する。重さが消える。軽い。光のように、意識が――
星が雨のように降る。砂漠の風が吹き上げる。甘ったるい異国の花と、スパイスの香り。
見下ろす巨大な月。渦を巻く水タバコの煙。耳慣れない官能の音楽。充満する麝香と酒の匂い。女の嬌笑。
永遠に繰り返す狂乱の宴。
「……ここ、どこ?」
気づけば夜の暗がりの中にいた。目の前には白大理石造りの王宮。壁もドアもなく、この中庭とひと続きになっている。
ゆったりとたわむ、柘榴色をしたベルベットのカーテン。薄暗い天井に惑星のように揺れる、壺型をしたランプ。どこからか流れる物憂げなリュートの調べ。床に転がる色とりどりのクッション。その上に、裸体に近い女たちが、ガラスの容器から伸びる細いホースを咥えて横たわっている。――ハレムだ。
「……宮廷の女奴隷たち。みんなハシーシュでハイになってるんだ。そうでもしなきゃ耐えられないから」
隣でライラが暗い声を出す。つまりこれは楽しい光景ではないのだろう。
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