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「少しくらい綺麗な顔をしてるからっていい気になるなよ、リュカ。お前、次はいくつになる?」
禿げオヤジはシャツを羽織ると、太い指先で俺の顎を挟んだ。
「……もうすぐ十六」
答えると、オヤジはふん、と鼻で笑った。いやらしく俺の頬をひと撫でし、指先を離す。
「いよいよとうが立ったな。会うたび背も伸びるし、声も低くなる。髭なんて生えたらぞっとするな」
――くたばれ、少年趣味の変態野郎!
罵倒を呑み込んだおかげで顔が引き攣った。オヤジはズボンを引き上げ、振り返りもせず、さっさと部屋を出ていこうとする。
「ちょっと待ってよ! チップは?」
慌てて背中に声をかける。オヤジは不愉快そうに振り向いた。
「最後までイッてないのにやるわけないだろ。お前にも飽きてきたところだったんだ。もっと生きのいい奴が入ったら教えてくれ」
バタン、と乱暴にドアが閉まる。
大声で叫びたいのを我慢して、ベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
あの糞オヤジ! デブでハゲでホモで変態でその上ケチなんて、生きる価値なし!
ぎゅっと目を瞑り、お得意の現実逃避で苛立つ気持ちを鎮めていく。
――降り注いだ金の雨が、金貨になる。きらきらと音を立て、山のように降り積もって。一生かけても使いきれない金貨の海に、深く沈んでいく――
「リュカ! あんた、またへまをしたのかい!?」
いちいち邪魔が入るから、せっかくの現実逃避も長く続かない。勢いよく開いたドアから部屋に踏み込んできたのは、風船のように丸々とした娼館の女将――俺の育ての親、マリエルだった。
仕方なく金貨の幻想におさらばし、のろのろ身体を起こす。
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