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「あー、ぼんやりして喘ぐの忘れた」
「また空想に浸ってたんだろ! お前、いまは若いからまだいいけれど、そうやって手抜きしてるとすぐに食えなくなるからね? 金持ちのいい客だったのに、もうお前は指名しないって言うんだから」
はいはい、と適当に相槌を打ち、よれた下着に脚を通した。いくら金持ちだって、どケチじゃどうしようもないじゃん。
「反省してます。次からは気をつけます。チップももらえず落ち込んでるんだから、それ以上俺を責めないで」
マリエルはふうっと大きくため息をつき、俺の頭を抱きかかえた。ぶちゅうっと頭のてっぺんにキスをする。
「今夜はもう上がっていいよ。気分転換でもしてきな。明日からまた頑張るんだよ」
「メルシィ、マリエル」
ズボンを履き、シャツの上にグレーのベストを羽織る。するとマリエルは広い眉間に皺を寄せた。
「どこに行くの? あんた、変なのに絡まれないように気をつけるんだよ。この前だって夜に出かけて乱暴されかけただろ。うちの大事な商品にタダで手を出されちゃたまったもんじゃない」
マリエルは俺の頭にキャスケット帽をぐいぐい押しつける。
夜の中だとこの金髪がやたらと目立つのだ。この界隈にいる派手な金髪の少年はもぐりの男娼だと、知っている奴は知っている。
「大丈夫。俺、逃げ足速いしさ。丘の上まで散歩に行ってくる。まともな奴なら神様の御前で、か弱い少年を襲ったりしないだろ」
「この世にはまともじゃない奴が多すぎるんだよ」
マリエルはぶつぶつと文句を言いながら、ふたたび奥へ引っ込んでいった。その姿を見送って、帽子を真っ直ぐ被り直し、娼館の裏口から外へ出た。
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