74人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにたぶん……魔王だってこんなことしたくないはずなんだ」
「……どうして、そう思うの?」
「魔王に呑み込まれたとき、何となくそう感じた」
あの真っ黒な津波に呑み込まれ、闇の淵に沈んだ。そのときに感じた、憎悪の中に潜り込んだ果てしない哀しみ。何かとても大事なものを失ったかのような――
そのとき、周りを囲む向日葵のあいだから、ホワホワがおずおずと姿を現した。
「あっ、ホワホワ……! まさか僕らのこと、覗き見してたわけじゃないよね!? サイテー、サイテー! もうホワホワとは遊んでやらないからね!」
ライラがホワホワを指差しぎゃあぎゃあと騒ぐ。そんなライラをなだめつつ、ホワホワを手招きした。
遠慮がちに手のひらの上に乗る。何となく、何かを伝えたがっているように見えた。
「……ホワホワ、何か俺にしてほしいことがあるの?」
「リュカ、ホワホワの言葉がわかるの?」
「いや、何となく」
手のひらに乗せたまま耳に近づける。遠慮がちにホワホワが耳に擦り寄った。
「……ねえ、ライちゃん。俺がフワフワとくっついても、ちょっとだけ焼きもち我慢しててくれる?」
ライラは可愛い唇を尖らせる。
「……ちょっとだけ?」
「うん。俺が世界一好きなのはライラだし、ライラが世界一可愛いよ。ホワホワよりライラの方が百万倍可愛い。いや、もう可愛すぎて誰とも比較にならないくらい。そんな世界一可愛くて世界一大好きなライラを助けるためだから、ちょっとだけ待っててくれる? お願い、ハニー」
そうたたみかけると、ライラはもじもじと顔を赤らめ、渋々頷いた。――ああー、俺の恋人の可愛いさたるや!
「そういうことなので、ホワホワ、俺に言いたいことがあれば遠慮なく言って」
耳に擦り寄るホワホワに語りかける。するとホワホワはぐっと身を押し付け、突然――俺の耳の奥に潜り込んだ。
えっ?っと驚くライラの顔が、真っ白な光にかき消される。途端、永遠に繰り返すアラビアの夜が目の前から消えた。
最初のコメントを投稿しよう!