追憶の先、交わす約束

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 ―――――――    ここは、どこだろう。  ぼんやりとしていた意識が、しだいに目の前の光景を映し出す。  歪んだ石畳。カフェで談笑する人々。花売り。行き交う辻馬車。色のない、シネマトグラフ(世界最初の映画)のような――  パリの劇場通りだ。もしや俺は、こっちの世界に戻ってきたのだろうか?  映像が軽く上下に揺れる。コツコツという足早なヒールの音が視界の下から響いていた。映画のような洗練された映像ではない、息遣いや心臓の音まで耳に届くような、肉体的な生々しさ。――もしかしたらこれは、誰かが実際に見た光景なのかもしれない。  細い路地に入り、白い女の手が古い劇場の通用口を開ける。狭い通路に積み上げられた、衣装や小道具の山。それを掻い潜り奥へと進んでいく。暗い階段を降り、突き当たりのドアを開けた。  化粧台や衣装に埋もれた、狭苦しい楽屋。その部屋のあちこちに陣取る、若く美しい女たち。ハレムの女奴隷のような肌も露な衣装を纏い、頬紅を叩いたり髪を整えたりしている。  部屋に入った途端、女たちは一斉に振り向いた。刺すような冷たい視線が視界に溢れる。  真っ赤な口紅を引いた黒髪の女が、目の前に迫った。 「リハーサルの初日から遅刻なんて、さすがの度胸ね。また朝まで脚本家にご奉仕していたのかしら?」  色のない世界に、女たちの紅い唇だけがケラケラと嗤う。  ――ごめんなさい。少し具合が悪くて、病院に。  初めて聞く女の声は、恐怖でかすかに震えていた。 「具合が悪いならさっさと降板してくれない? 分をわきまえず、股を開いて主役をおねだりするからこんなことになるんでしょう?」  いやだぁ、言い過ぎよ。ほら、また泣きそうな顔して。どうせ虐められたって告げ口するわよ、この子。いくら才能がある脚本家なんていっても、所詮は男よね。こんな野暮ったい女にころっと騙されちゃうんだから。  楽屋に渦巻く、嘲笑と蔑み。黒髪の女が肩を押しやったようで、視界が左右に大きくぶれる。  そのとき、大きくドアを叩く音がした。続いて若い男がドアの隙間から顔を覗かせる。
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