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「おーい、支度終わっただろ! そろそろリハはじめるぞ!」
少年っぽさが残る明るいブルーの瞳。その瞳になぜか懐かしさを覚えた。
「ジョルジュ!」
女たちの瞳が一斉に輝く。
「よろしく、エマ、クロエ。ジャンヌ、今日もきれいだよ。エミリー、ソフィア、期待してるよ。やあ、エルザ、アリシア。ああ、マドレーヌ! この前の調子で頼むよ!」
女たちはジョルジュと呼ばれた男の頬にキスをして、つぎつぎに楽屋を出ていく。
そして部屋が空になると、男は真っ直ぐこちらに向き直った。
その瞬間、雷に打たれたように気づいた。
――ジョルジュ爺さんだ。まだ若かった頃の、ジョルジュ爺さん。つまりこの映像は、何十年も昔のジョルジュ爺さんを知る女性の記憶だ。
「オリヴィア。どうしたんだ、着替えもしないで」
そう言いながら、その手が優しくこちらの髪を撫でる。その視線も口調もさっきとは打って変わり、ふたりが親密な関係だということがすぐにわかった。
――あのね、ジョルジュ。私少し、具合が悪くて。
「本当に? 今朝、部屋を出るときはそんなこと言ってなかっただろ?」
明るいブルーの瞳が労るように覗き込む。
――やっぱり、私に主役は無理だと思うの。劇団に入ってまだ間もないし、それに私の髪、金髪だし、シェヘラザードのイメージとは違うでしょう? 黒髪のジャンヌの方がずっと――
「それがいいんじゃないか。僕の脚本はいままでのアラビアンナイトとはまったく違うものなんだ。僕は君のためにこのシェヘラザードを書いたんだよ。それに今日は有名な評論家が見に来るって言っただろ? ほんの数時間だよ。頑張ってくれないかな」
そう言って唇にキスをし、慌ただしく部屋を出て行く。
「愛してるよ、僕のミューズ!」
どくどくと、早まる心臓の音が耳の奥に響く。
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