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仰ぎ見れば大きな月と星。残念ながら、本物の星は金貨になって降り注いだりしない。
数ヶ月、娼館街の裏手の丘に大聖堂が建った。そのときぼうぼうのくさむらもすっかり整備され、小綺麗な公園に生まれ変わった。そこから街の夜景がよく見えるので、夜になるとカップルがうようよ集まってくる。
もちろん俺にはデートの相手なんていない。カップルたちのイチャイチャを冷やかしに行くのだ。
ポケットに両手を突っ込み、階段を二段飛ばしで登っていく。踊り場に差しかかり、階段を右に折れようとした、そのときだった。
突然、空から慌てた声が降ってきた。
「ねえ! そこのお兄さん!」
大聖堂前の広場の手すりから、黒い人影が大きく身を乗り出している。ここからだとちょうど三階の窓ほどの高さだ。
「ごめん、受け止めて!」
――受け止めて、って何を?
そう思ったときにはもはや手遅れだった。
ひらり、と声の主が鉄柵を飛び越え、空中に身を投げた。両手を広げ、鳥のように降ってくる。
それを見て、反射的にポケットから手を出し、両腕を広げた。
――いや待て、嘘だろ!? あの高さから飛び込んできたら、俺が下敷きになって大怪我するだろうが!
だけどもう逃げ出すこともできない。もしここで俺が身を引いたら、相手が地面に激突する。
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