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黄金の波間、幸せな結末
果てしなく続く向日葵畑。それを包み込むように、目が痛いほどの青空が広がっている。ゆるやかな丘を撫でるそよ風。揺れる黄金の波間に、白い日傘が覗いた。
日傘の下に、大小ふたつの人影。繋いだ手を離し、金の髪をした男の子がこちらに向かって走り出す。その腕には古い本を抱えていた。
――パパぁ!!
どろどろと蠢く巨大な憎悪のもとへ、怯みもせずに。
――あのね、このお話、ひどいんだよ。誰も信じられなくなった王さまがね、毎晩毎晩人をいっぱい殺すんだ。
魔王は身じろぎもせず、その幼な子を見下ろした。
――どうしてみんな殺しちゃうんだろう。王様はひとりぼっちで淋しくないのかな。もし僕が会いに行ったら、王様は僕のことも殺しちゃうと思う?
目も口もない、蠢く闇の塊をその子は見上げた。明るい空色の瞳で。
――大丈夫よ、リュカ。あなたのパパはね、物語を作るのがとても上手なの。いっぱいいっぱい作ったのよ。今回もきっと素敵な結末にしてくれるわ。
男の子の隣にやってきたオリヴィアが、優しく声をかける。
――パパ、このお話の続きを作って。みんなが幸せになれるやつじゃなきゃ嫌だよ。
そう言って、古ぼけたその本を「パパ」の方へ差し出した。
真っ黒な輪郭が動きを止め、崩れ出す。漆黒の雪のように、ほろほろと、涙を流すように――
やがて崩れ落ちた闇の中から、床に膝をついた老人が現れた。
皺の深い顔を両手で覆い、咽び泣く声とともに痩せた背中が震える。
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