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「いつか俺も、ジョルジュ爺さんみたいにシワシワになるけど」
「じゃあリュカとおそろいで僕もシワシワにしてもらおうかな。あっ、それとも若いままの方が嬉しい?」
「……そういう話ではなくて、つまり」
「つまり?」
ライラは不思議そうに小首を傾げる。
「俺はいつか死ぬと思うけど、そのときライラはどうしたい?」
そう訊ねると、ライラははっと目を見開いた。だがすぐに長い睫毛を伏せ、噛みしめるようにこんなことを言う。
「そのときは一緒に連れて行って。お爺さんとホワホワみたいに、僕もリュカと一緒に眠りたい」
――まるでプロポーズのような言葉。聞いている方が照れ臭いほどの。
「……そんなに愛されてたなんて気づかなかったわ」
「気づいてくれてよかったです」
ライラも照れ臭かったのかくるりと背中を向け、俺の胸にもたれかかる。紺青の海風に長い髪が舞った。
「……じゃあ話がまとまったところで、少しロマンチックな魔法をかけてもいいですか?」
「大歓迎」
暗い水平線の向こうから、きらりと光の欠片をこぼす。
そして内緒で用意していた愛の言葉を――夜明けの光の背に乗せて。
「――『この地に降る幾億の星に優りし、麗しの君よ。その耀きが世の暗闇を駆逐し、永遠に我が心の光とならんことを』」
夜の水面に、眩い光の束が駆け抜けた。暗黒を蹴散らし、世界を目覚めさせる新しい光――
千と一の夜が、初めて明ける。
「……ロマンチックどころの話じゃないね。甘すぎて溶けそう」
ばら色に染まりはじめる海の彼方、ライラが幸せそうに目を細めた。
朝陽に揺れる長い髪。艶めく小麦色の肌。上を向いた長い睫毛も、大きな黒い瞳も、そのすべてが生まれ変わったようにきれいだった。
「リュカ、長生きしてね。できるだけ長く一緒にいたい」
「かしこまりました、俺の可愛いお星様」
目覚めたばかりの世界で、その唇に誓いのキスをする。
こうしてふたりは、末永く幸せに暮しましたとさ、なんてね。
――これにて呪いと闘いの第一幕、めでたく閉幕。次回からは、俺のお待ちかね、濃厚な愛の第二幕、開演の運びと相成りました。乞うご期待であります!
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