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ボクが運ぶもの
家に着いてから、コウタは一言も喋らないままキッチンに籠ってしまった。ボクが心配をかけて怒らせてしまったのだろう。
ボクがツノを探しに家を出て2時間後、コウタは帰宅したらしい。最初は特に気にしていなかったけれど、寒がりなボクがこの時期に長く出掛けることは初めてだった為、お昼を充分に過ぎた頃にはボクを探しにフユと一緒に家を出たとフユが教えてくれた。
「コウタはね、失うのが怖いのさ。大切なものを」
コウタに家族がいないことは知っていた。大好きだったおばあちゃんの写真は、今も部屋に飾られている。
「この家は、元々お祖母さんと暮らしていてね。早くに両親を亡くしたコウタにとって、お祖母さんは母親代わり。一番大切な存在だった。そのお祖母さんが亡くなってからちょうど一年後、コウタは大切そうに小さな命を抱きしめて家に帰ってきたんだ。ナツ、それが、あんただよ」
ボロボロだったボクを、コウタはとても嬉しそうにフユに紹介したそうだ。
「この子を、守りたいんだ。フユ、協力してくれるかい?」そう言ったコウタは、祖母を亡くしたばかりのボロボロだった自分と重ね合わせるように、ボクを優しく撫でたらしい。
ボクは、結局なにも出来なかった。そればかりか、コウタを怒らせ、悲しませてしまった。ボクはなんと無力なのだろう。
落ち込んでいた、その時だ。
パンッと、何かが弾ける音がした。
驚いて音の方を見てみると、コウタが笑顔でこちらを見ている。
「おめでとう。ナツ、フユ。君らは二人とも野良だったから、誕生日がないだろう? だから、今年からは12月12日が誕生日だ。これは、ボクからのプレゼントだよ」
言って、コウタは両手に持っていたお皿をボクとフユの前に置いた。
いつものカリカリではない、手作りの御馳走だった。コウタは、これを買いに出掛けていたのだ。
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