見つけた!

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見つけた!

「あれが、山かぁ」  近くで見る山は、とても大きかった。休憩も兼ね、休みながら観察をする。だが地面に伏せて休んでみるも、冷たくて落ち着かない。  だんだんと雲行きも怪しくなってきた。陽も落ちてきたし、早くツノを手に入れて帰らなければ。  くたくたの体を持ち上げて、再び山の方へと足を進める。更に近くまで行くと、山の入り口が見えた。ここからはたくさんの木々が並んでいることしかわからないが、その手前には大きな道路があって、車が左右から走り抜けて行く。  もうすぐだ。もうすぐ、シカに会える。  道路の手前まで来て足を止め、一旦立ち止まる。  先程まで疲れていた身体も、あと一歩というところまで来て元気を取り戻したように感じた。  車が来ないタイミングを見計らっていた、その時。木々の奥で、何かが動いているのが見えた。  よく見てみると、それは牛よりも細身で──頭から、長いものが生えている。  見つけた!ボクは、なんてラッキーなんだ!  遠くのものはぼんやりとしか見えないけれど、確かに頭に大きなツノらしきものが……。間違いない。あれが、シカだ。  逸る気持ちを抑え、田舎にしては車通りの多いこの道路を渡らないことには、シカに話を聞くことも叶わない。  なかなか途切れてはくれない車に苛立ち、焦る心をどうにか落ち着かせる。と、その時だった。  先程まで立ち止まっていたシカが、ゆっくりと歩き出した。その方向は、ボクがいる場所とは反対方向だ。つまり、山の奥の方へと顔を向け、足を動かしている。 「待って!!!」  ボクは、咄嗟に走り出した。  体が、勝手に動いてしまったんだ。  景色が、流れる。  全ての音が、鮮明に聞こえる。  風の音。草木が揺れる音。雨が降り始めた音。そして、車が迫り来る音。 「ナツ!!!」  コウタの声まで、聞こえた。
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