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それに驚いて後ろへと顔をそらすと顔が離れてホッとしたのも束の間。
「ほら。あーん」
と羊かんを指でつかんで口元に差し出した。
「えっ」
誰かに食べさせてもらうなんて子供の頃以来なので、まさか大人になって、しかも病気でもないのにされるとは思わなかった。
「ほらお食べ」
かたまってしまった熊一は動かず、しびれを切らしたか司狼の手によって口の中へと押し込まれてしまう。
司狼に食べさせて貰うなんて。どうしてこんなことになったのかと混乱するが羊かんは美味しくてため息がもれる。
「くっ」
司狼が口に手を当てて地面を叩いている。どういう反応なのだろう。自分から口に押し込んだのに。
「すみません」
とにかく謝っておこうと口にすると、
「え、なんで謝るの!? あんなにかわいい、んんっ、とにかく羊かんが美味しかったみたいでよかった」
そう言われて別に怒っている訳ではないとわかる。司狼の反応はよくわからない。
「はい。ご馳走様でした。俺、仕事に戻りますので」
これ以上、一緒にいると頭の中がはち切れそうなので仕事に戻ろうと立ち上がるが、
「まだ休憩中だよ」
手をつかまれて引っ張られる。
「一番年下なので先に戻ろうかと」
皆と一緒の時、そして司狼と二人の時もそう理由をつけて先に仕事に戻っていた。今まではそれで済んでいたのに今日に限って引き留められる。
「俺と一緒にいるのは嫌?」
「えっ」
何故、そんなことを聞いてくるのだろう。一番答えに困るやつだ。
司狼や大工仲間のことは嫌いではない。ただ、誰かと一緒にいるのが苦手なだけだ。
自分といても楽しくなんてないだろう。それなのに司狼はそう聞いてくる。
「困ります」
「困るな。嫌じゃないですって言うところでしょう!」
それは熊一の性格上言えない。
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