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結局、黙ったままうつむく熊一に司狼が大きくため息をついた。これでわかっただろう。相手にしてもイラつくだけということを。
「どうしたら俺を好きになってくれるかな」
だが司狼が口にしたのはそんな言葉だった。
「なっ」
こんな自分を好きという司狼が信じられなかった。
顔を上げると、司狼は目を細めて口角を上げた。
「見てくれた」
喜ぶ顔を見た熊一は、目を見開いて口を開ける。
「俺がしつこく絡むのは熊一が好きだからだよ。羊かんだってお前のために用意しているんだから」
「そ、う、なんですか」
「熊一は無口だけどその分表情が豊かだよね。ほら、すぐに真っ赤になるし」
「へ?」
自分の顔がどうなっているかなんか知らない。見る術がないのだから。
ぺたぺたと自分の顔を触ってみるが頬が熱いことだけはわかる。
「甘いものを食べている時の熊一、耳が動いているからね」
「えぇっ」
尻尾は揺れていたが耳もとは。
「俺と話しているときは目元が真っ赤だし」
「ぐっ」
ふたりきりで話すと緊張するからだろう。
じつはわかり易くて単純なのではと思うと恥ずかしくて穴の中に隠れたい気分だ。
両手で顔を覆い隠し小さくなる熊一に、司狼が頭を撫でまわす。
「熊一、俺のものになって」
「む」
「む?」
「無理です!」
真実を知ってしまった今は何も考えられない。
熊一は立ち上がると司狼から一目散に逃げた。
「逃げても無駄だよ。俺はずっと君を追いかけるからね」
という言葉が聞こえて、それを消すように大きな声で吠えた。
<おしまい>
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