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【満たされたい】
嫉妬心からの言い争いは四日目を迎えていた。ことの発端は後輩の佐崎であった。
穣は佐崎を真太郎と下の名で呼び弟のようにかわいがっている。彼の兄と同級生であり家が近所で幼いころから兄のように慕われていたという。
だからなのか嫉妬してしまうくらいに距離が近い。肩へと手を回したり頭をなでたりしている姿を目の当たりにしたら彼氏として怒るのは当然だと思う。
だが穣の中では弟にするような行為で、狭量だといわれてしまった。
嫉妬をするなという方がおかしい。それも何度か見かけているのだ。
それに対して穣にいうのは初めてであった。それなのに、そんなことを言われたら斎もさすがにキレた。
「俺の目の前でいちゃいちゃした挙句、そういうことをいうんだ」
「あんなの、ただのスキンシップだよ。君だって弟君には甘いじゃない」
俺の弟は十歳年下で、互いにブラコンであった。本当の兄弟なのだから多少、甘くなるのはしかたがないと思う。
「俺とお前は違うだろ!」
「ふぅん、僕が愛しているのは君なのに疑うんだ」
いつものほほんと穏やかな穣の目がスーと氷のように冷たいものになる。
しまったと思った時にはもう遅い。
斎は燃えやすく冷めやすいが穣は静かにいつまでも燃え続ける男だ。
立ち上がりキッチンへと向かうと大量のレトルト食品を手に戻ってきた。
非常食用にと買っておいたものだがまさかここで出てくるなんて。
「家庭内別居させていただきます」
そう告げると自室へと入っていった。
同居をするときに互いに一部屋ずつわけた。大抵はリビングか寝室にいるのであまり使わない部屋であったがこういうときの為にあったのかと今頃気が付いた。
そっちがその気ならと思っていたが、一日目はテーブルの上のラーメン、二日目はコンビニの弁当、三日目は店で食事をしたが、腹は膨れたが心から満たされることはなかった。
音を上げたのは斎の方だった。
「口がさみしいなぁ~」
胃袋をがっつりとつかまれている。それに、それだけではない。後ろが彼を思い出して切なくなっていた。
自分の洗濯物を畳んでいた穣の手が止まりエプロンのポケットから何かを取り出してこちらへと投げる。
「痛ぁ」
それが額にあたりカーペットの上へと落ちた。ミルク味の飴だ。
「あのなぁ、飴ちゃんじゃ俺のお口ン中はみたされんぞー。ミルクなら穣のおっぱいを吸うし!」
「僕は君のママじゃないから母乳はでない」
今はおっぱいとか母乳とかといっている場合じゃなかった。これ以上は怒らせないように、
「穣は俺のママじゃなくて恋人だよ。いつも美味い飯を作ってくれて感謝していますとも」
手を合わせて頭を下げると、穣は頬を膨らませて顔をそむけた。その仕草はおっさんと呼ばれる歳になっても可愛い。
「なに、にやにやしてんだよ君は。僕は怒ってんだよ!?」
「でもさ、拗ねる穣が可愛いんだもん」
「なっ、そんなこと」
うろたえながら頬を染める。そういう所もキュートだ。
「もう、斎君たらずるいよ。僕を怒れなくさせるんだから」
「へへ。そういうとこがよいところのひとつな」
愛おしいという気持ちが体を熱くさせ、欲しくてたまらくなっていた。肩肘を突き意味ありげに自分の下半身をなでて誘いこむ。
「もうっ、僕が助平なことをわかっていて誘うんだから」
「そうだよ。で、穣君、俺のおなかを満たしてくれるわけ?」
「わかった。斎君の大好きなのいっぱい食べさせてあげるね」
のほほんとしていた顔が雄の顔へと変わる。
その変化がたまらなく続々と体を震わせた。
「たまんねぇなぁ。雄を丸出しにした顔を見ただけでたっちまった」
自分よりも細い体を押し倒しその上に跨れば、 穣が口角を上げて目を細めた。
「床の上だと明日が辛いよ?」
「でもよ、ベッドまで待てねぇ。ゴムはソファーの隙間、ローションはクッションの裏に置いてあるから」
穣の匂いを求めてリビングでしたときに隠しておいたものだ。
「なんて所に隠しておくの」
言われた場所へと手を伸ばしゴムとローションを見つけてため息をつく。
「でも役に立った」
そういうことじゃない、穣の表情はそういっていた。
「はっ、どこでも盛るくせに、何言ってんだよ」
穣の首へと腕を回して顔を引き寄せてその唇をぺろりと舐めると、それが合図となり唇が重なった。
<おしまい>
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