蝶よ花よ

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蝶よ花よ

「また明日な!」  少年の声が空に響く。秋も深まり子供たちの衣服も冬仕様と変わっていく。その中、未だに半袖をまとう少年は、帰宅途中に必ず寄る場所がある。道路脇にある花壇に足を止めて、うんと頷いた。 「まだ元気だな。冬を越せるといいな」  その視線の先には黄色い蝶。すでに花も枯れた花壇の一角にじっとその蝶は止まっている。少年がその蝶をはじめて見たのは夏の終わり。この花壇を通りかかったとき、蝶が花の蜜を吸う姿を観察していたのがはじまりだ。 「お前、可愛いな」  そう声をかけた日から蝶はそこにいる。少年は何かしら運命のようなものを感じて、毎日、蝶に声をかけに来る。蝶も人の言葉を知ってか知らずか、少年を待ち構えるようにそこにいた。 「明日またな。まだまだ頑張るんだぞ!」  少年はそう声をかけて駆けていく。蝶の目は少年の後ろ姿を追う。本当は限界だった。いつ凍えて死んでしまってもおかしくない。毎日自らに可愛いと言ってくれた少年の顔を明日も見たい、明後日も見たい、もう一日、と眠たい目をこらえながら生きながらえてきた。  今日も蝶は願う。もし人になれたならば、話すことも一緒に笑うことも一緒に過ごすこともできるのにと。神様お願いします。願わくば私を人として生まれ変わらせてくださいと。
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