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蝶のまぶたはゆっくりと閉じていく。冷えると思ったならば、日は落ちて空より雪が舞い降りてくる。
ああ、もう終わりか……。せめて最後にあの少年のもとで眠りたかった。最期を悟った蝶は羽根を広げる。届かなくとも、あの少年のいる場所へ向かおうと。
雪が舞う中、黄色い羽根を羽ばたかせ蝶は飛ぶ。頭に浮かぶのは少年の笑顔ばかり。これはもしかしたら恋と呼ぶのかも知れない。いつも少年が遠ざかる道をフラフラと飛ぶ。
もう少しもう少し。そして蝶は地に落ちた。少年の声が聞こえる。
「お父さん! 女の子が倒れてる!」
声が届くや否や蝶の目には少年の顔が映る。
「大丈夫?」
「会いたかった……」
口から出た言葉は人の言葉だった。
「美味しい……」
蝶は蜜以外のものをはじめて口にした。温かなココア。
「君、名前は?」
「分からない」
「お父さんとお母さんは?」
「分からない」
「どこから来たの?」
「分からない」
少年はいくつも質問するが、人の姿となった蝶には全てが分からなかった。答えられなかった。
「どうしてあんなとこに倒れていたの?」
蝶が倒れていたのは道の真ん中。その答えは蝶ははっきりと口にした。
「あなたに会いたかったから」
「僕に?」
蝶はこくりと頷く。少年の顔は赤くなるが、それとともにほころばせもする。
「なら僕が君の名前を決めるね。呼ぶときに困るから。……蝶なんてどう? 僕ね、毎日見守ってる蝶がいるんだ。側にいっても逃げなくてとても可愛いんだよ」
「蝶……。うん、私らしいと思う。君の名前は?」
「花。花って言うんだ。あんまり男の子らしくない名前だけど僕は好きだよ」
花の両親は、何事かを話していたが蝶と花が仲良く話している姿を見て相談もやめた。
「蝶、しばらく家にいなよ。これからどうすればいいか僕には分からないけど、仲良くすることはできるから」
蝶も頷いて見せる。願いが叶い始めた瞬間だった。
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