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蝶が目を覚ますと花はせかせかと動いていた。
「寝坊だ! 遅刻だ! 蝶、いい子にしてるんだよ!」
花はそう叫んでまだ布団の中にいる蝶に手を振る。蝶も手を振り返すと花はバタバタと外に駆けていった。
蝶は花のいない時間をどう過ごすか悩んだが、近くにあった本棚に手を伸ばす。ペラペラとめくってみて、人の文字を読めることも知った。次に恐る恐る花の部屋を出てみると花のお母さんが家の掃除をしている。
蝶が手伝いますかと言うと笑顔で休んでいていいよと返された。
外に出るのはまだ怖い。窓から見た外は雪が積もっている。凍えてしまうかも知れない。出るとしても花と一緒がいい。
花の部屋に戻り、またペラペラと本をめくる。花はこんな物語を読んでいたのだと感心する一方、人の世界というものを蝶は学ぶ。ちらりと窓の外に目をやれば、やはり雪。
「花、早く帰ってこないかな」
つい呟いた。
蝶がどこから来て誰であるのか、ほとんどの人には分からないが、花は蝶はあの黄色い蝶だと信じて疑わなかった。花の家族も蝶を家族のように扱い、そこにいることに文句一つ言わなかった。だからこそ蝶は夜更けに祈る。神様ありがとうと。
冬はさらに厳しさを増すが、花と蝶は相変わらずに穏やかに過ごしていた。部屋に閉じこもりの蝶を心配してか、年が明ける頃、家族でスキーに行くことになった。
蝶ははじめて身につけるスキーウェアに戸惑っていたが、花はそんな蝶も可愛いと笑う。
「スキーなんてしたことない……」
「僕が教えるから大丈夫」
花は常に優しい。それは蝶だけではなく誰にでも優しい。蝶はそんな花がやはり好きだ。人となってから毎日が驚きの連続だが、花は常に穏やかに蝶の横で笑っている。きっとこのまま二人で大人になっていくのだろうと蝶は疑わなかった。
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