「酔っちゃったみたい」の本当の意味は、まだ帰りたくない

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 気づけば、寝ていたらしい。小鳥のさえずりで目を覚まして、周りを見渡す。昨日のお酒は、もうどこにも残っていなかった。 「おはよう」  声の主を見上げれば、半分開いていない瞳の渚。渚は私よりほんの少し早く起きていたらしく、跳ねた寝癖が愛おしい。 「おはよ」 「昨日のこと、覚えてる?」 「お酒で忘れるようなことはしないよ」 「そう、じゃあ」  そう言いながら私の目の前に座り込む。目線が同じ高さになって、心臓が痛い。ぎゅっと握りしめられた手から熱が全身に広がっていく。 「酔ってる光には言いたくなかったから」 「うん」 「俺は、光のことが好きだよ。このまま、一緒にいたいくらい」 「私も好きだよ、渚のこと」  ずっと、渚の瞳に写りたかった。今は、私が渚の瞳を独占している。 「じゃあ、俺と付き合ってください」 「おねがいします」  寝癖のまま、お辞儀をすればごちんと当たるおでこ。渚の唇が、私の唇に軽く触れる。それだけのキスなのに、甘くて生ぬるくて心地よかった。  頭を柔らかく撫でる渚の手が、大きくて包み込まれるみたいで落ち着く。渚の胸に体をそのまま預ければ、渚の体温と私の体温が交わっていく。 「もう少しだけこうしていたい」 「いいよ」 <了>
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