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このまま2人で朝を迎えたい。できれば、渚の恋人になりたい。でも、高望みはしない。今日、このまま朝を迎えれればなんだっていい。
そっと触れてるのか分からないくらい柔らかく抱きしめられただけで、胸がいっぱいになる。
「それだけで、本当に満足?」
耳に触れそうなくらい近いところで、渚の声がする。声だけで、目眩がする。何も答えられない私に、渚はただ私を見つめて待ってる。
私の答えを、待ってる。
好きって伝えたじゃん。わかってよ。これ以上、言わせないでよ。答えてくれないなら。
頭の中では、ぐるぐる溶けそうになるくらい色々な言葉が回っているのに。口からは、何もでない。呼吸の音だけが、薄く開いた唇から漏れていく。
「俺だって。まぁ、酔ってる光には、絶対言わないけど」
独り言のように呟いた言葉は、はっきりと耳に届いた。腕を引かれながら、見慣れない道をひたすらに渚の後を追いながら歩く。
雨に降られた迷子の犬みたいな気分だ。酔っ払って、失ってた理性はとっくに戻ってきてる。
「ここ、俺の家だけど。帰る? 寄ってく?」
問いかけるのはずるいよ。渚はずるい人だ。
「朝までそばにいたい」
ぽつりとこぼした本音は、一滴も溢されることなく渚に掬われる。
「じゃあ、おいで」
強引でも、優しくもない言葉に引かれて渚の家に入る。渚の家は、当たり前だけど渚の匂いがしていて、脳みそがキャパオーバーになりそう。
まるで、渚に包まれてるみたいだ。
「布団敷くから待ってて」
ぼーっとただ、渚の匂いだけ確かめる。幸せすぎて、今夢の中なのかもしれない。目が覚めたら、きっと道路とかで寝っ転がってるんだ。
「ほら」
布団を敷き終わった渚は、ぽんぽんっと軽く私の頭を撫でてから笑う。ずるい。
「とりあえず、寝な。まだ酔ってんだろ」
優しくするのも、そうやって笑うのも、全部ずるい。涙が溢れてきて、止めどなく落ちていく。
「泣くな、泣くな。寝なさい」
「やだ」
「急に駄々っ子」
そう言いながら私を寝かしつけるように優しく頭を撫でる渚の手が、あったかい。ずるい。
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