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出来あがった特製エピキュリアンパフェは見たことの無い豪華で綺羅びやかな代物だった。
トレーの中心にワインクーラーに盛られた特大パフェに、トレー各所に彩り良く盛られた各種のスイーツ。それはまるで……。
「まるで宇宙のよう……」
そうだ、ノーマルのエピキュリアンパフェが太陽なら、これは宇宙を表しているようだった。
店長は慎重にトレーを給仕用のワゴンに載せると、静かに押してお客様であるスイーツの銀とやらのところに持っていく。
「お待たせしました、特製エピキュリアンパフェ・極でございます」
「うむ」
トレーをテーブルの上に移すと、店長が尋ねる。
「カトラリーは……」
「必要ない」
「は。では失礼します」
店長が頭を下げてから戻ってくると、カウンターの内側に引っ込み様子を伺う。もう話してもいいよね。
「店長、もう話してもいいですか」
「ああ」
返事をしながらも目はお客様から離さない。
「あのお客様は誰なんですか」
「スイーツ界隈ではスイーツの銀と呼ばれている人だ。なぜなら……」
スイーツの銀は懐からきれいにたたまれた手ぬぐいを出すと、それをテーブルの右端に置き開く。中からきれいに磨かれた銀製のスイーツ用カトラリーが出てくる。
「あの銀製のスイーツ用のマイカトラリーで食されるから付いた呼び名だ」
「何者なんです」
「──菓子職人とパティシエの間では有名な人だ。着流し姿でふらりとやってきては、その店の看板メニューを食べて、支払いのときにポツリとひと言言って帰っていく。そのひと言は天からの啓示の如くで正しく読み取ると、進むべき道を示してくれるという」
なんだその予言者みたいな人は。
「最初は誰も相手しなかった。変な格好をしたオヤジがクレームを言っているだけだと思ってた、だが……」
店長の言葉がとまった。スイーツの銀が食べ始めたのだ。
ナイフとフォークを持つと、正面にある小皿に盛られたクレープを食べ始める。つぷっと切り取ると一口大になったクレープを口に運ぶ。なんというか強面の見た目に反して優雅というか気品を感じる。
クレープを食べ終わると、今度は左側の小皿に手を付ける。それを見て店長が呟く。
「さすがだ」
「なにがです」
「ぱっと見は分からないだろうがあの盛り付けには配置がある。その順番に食べていただくとより美味しく食べられるんだ」
「という事は、特製と同じコース料理な感じですか」
「いや違う。それをさらに進化させた、伊達に[極]と名付けたわけではない」
私達の会話をよそに、スイーツの銀は黙々と食べていく。そして気がつかなかったが、その食べるペースが少しづつ早くなっていってた。
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