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「は、はやい」
けっして大食いタレントのように大げさに食べることなく、あくまでも気品がある優雅な仕草で、だがしかしそれでも早技で食べていく。
「あんなに早く食べて、ちゃんと味わってるんでしょうか」
私の質問に、店長は目をそらさず答える。
「クレープもシュークリームもフルーツもひと口大にカットして口に運び、一定のリズムで咀嚼して飲み込んでいる。前に食べた味の余韻が残っているうちに食べている」
──よくそこまで解るな。
まるで実況と解説コンビみたいな感じで、私達はスイーツの銀が食べるのを見続けている。
極のトレーから三分の一ほど食べた頃に、私はやっと、店長とスイーツの銀の思惑を感じることができた。
「店長、ひょっとしてあれはこの店のメニュー、全部使っているんですか」
「──そのとおりだ。パフェ同士やケーキ同士等の同じ材料が被った部分を排除し、当店メニューの特色同士を味の変化をつけつつも流れを壊さない配置と盛り付け、特製がコース料理なら、極はいわば満漢全席、そう、スイーツパーラー[エピキュリアン]のスイーツによる満漢全席だ」
ま、満漢全席だってぇぇぇ。なんという贅沢な。
そしてスイーツの銀が手早く食べ進む理由もわかってきた。トレー上のスイーツをほぼ食べ終えあとはワインクーラーのみとなったので気がついたのだ。
「アイスクリームか……」
溶けたアイスクリームなど美味しいはずはない、あれが溶けきる前に食べたかったからか。
ワインクーラーに盛り付けられたメインのパフェ。その最長部のフルーツを食べ終わると、銀はおもむろにカトラリーを取り替える。
「あれは……、ひょっとしてバー・スプーン?」
「いやちがう、あれはスイーツの銀特製のアイスクリームスプーンだ」
たしかにバーテンダーが使うバー・スプーンにしてはスプーンの部分が四角くて大きく片面がナイフ状になっている。しかしそれ以外は柄が長くツイストされ、反対側はフォーク状になっているバー・スプーンそのものだ。
「なんであんなものを」
という私の疑問はすぐ解けた。ワインクーラーの中にあるアイスクリームを取り出しやすくする為に柄が長いのだ。
「あんなスプーンを使うという事は、スイーツ専門で大食いチャレンジをしている人なんですか」
「いや、そうではない。アイスクリームというのは状態によっては冷た過ぎて硬い場合がある、アイスクリームスプーンには熱伝導率が高い素材で作られてものがあり、体温で溶かしながら食べるものがある、あれはその類のもので柄の持つ場所によって溶けるタイミングを変えるためだ」
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