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店長の言葉を裏づけるように、銀は特製スプーンの持つ位置をずらしながらアイスクリームを食べている。
いや、アイスクリームだけではなくシャーベットや氷菓子の部分も相変わらず一定の速度でどんどん減っていく。
「──歯がしみたり頭が痛くなったりしないのかな」
「ならないだろうな。左手を見てみろ」
「左手?」
今立っているところでは背中と袖で見えなかったので、店長の背中越しに覗き込んでみると、いつの間にか銀の左手にはマグカップが持たれていた。
「あれは何です」
「おそらくホットミルクだろう、味変と温度調整用に持参したとみた」
「うち、持ち込み禁止ですよね」
「……許容範囲かな」
そんな私達の会話を尻目に、銀はついに底にあるフレークをキレイに食べて、神々しく感じるほどのご馳走様の合掌をした。
「すごい大食漢ですねぇ、あの華奢な身体のどこに入ったんでしょう」
「痩せの大食いとはまさしくだな」
銀はマイカトラリーを手ぬぐいでキレイに拭くと、懐に仕舞い席を立ちレジまでやってきた。
「いよいよか……」
店長は緊張の面持ちで会計をする。けっこうな金額だったが銀はちゃんと払ってくれた。食べるだけ食べてクレームを言っていく無銭飲食を心配していたが、そうじゃなくてホッとする。
「……もの足りぬな」
…
……
………はい?
もの足りないだと⁉ あれだけ食べてもの足りないだとぉ⁉ 当店のメニュー全品だぞ、多少省略されているけど量的には全メニューの三分の二はあった量だぞ、それがもの足りないだとぉぉぉぉ!!
「何が足りませんでしたか」
おお、店長が問い返した。いけいけ店長、言い返してやれぇ。
「見た目の割には甘味が足りない、人工甘味料を使ったな、甘味屋は甘い物好きの為の店だ、甘過ぎるのが当たり前だろう、基本中の基本だ」
え、人工甘味料使ってたの? そんなモノ使ったこと無かったのにどうして?
「あえて使いました、貴方のために」
「どうしてだ」
「わかりませんか」
「……」
銀は無言で立ち尽くす、その時、お店に入ってくる人が、人達がいた。
「ご連絡ありがとうございます、お迎えにあがりました」
医療福祉関係を思わせる制服を着た若い男性達が店長に挨拶をする。
「お手数をかけましてすいません、よろしくお願いします」
「なんだお前らは」
銀が怪訝な顔をして威嚇するように言うが、男達は気にもせず店長と話を続ける。
「何かされましたか」
「これだけの量を食べましたが、カロリーとしてはこのくらいです」
メモをポケットから取り出して渡す、それに目を通した男達はため息をついた。
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