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「相変わらず健啖家ですねぇ、でもカロリーを抑えてくれてありがとうございます」
「こちらこそよろしくお願いします」
店長と男達の会話を見守っていたが、それを尻目に銀は出ていこうとするのを男達は両腕を取って捕まえる。
「は、離せ、はなさんか」
「そうはいきませんよ水菓子さん、さ、施設に戻りましょう」
…
……
………
水菓子さんて……
「オヤジのことよろしくお願いします」
「誰がオヤジだ、年寄り扱いするな」
銀が店長に喰ってかかる、さきほどの優雅な食事姿からは想像もつかないほどの態度だ。
「また忘れたんですね、水菓子銀次。わたしはあなたの息子の実です」
ええええええぇぇぇぇ!!
「わしに息子はおらん」
「はいはい、それじゃまたね」
「誰がこんな店に来るもんか、わしはスイーツの銀だぞ、わしは、わしは、」
喚き散らしながら男達に連れ去られる銀を見送り、私はさすがに訊ねられずにいられなかった。
「店長、あの、展開が早過ぎてついていけないんですけど、いったいどういうコトなんでしょうか」
店長は扉に貼られた臨時休業の紙を剥がし、あらためて閉店の札を下げると、厨房に戻りコーヒーを淹れて私に席に着くようにいう。
「……騒がせて悪かったね、身内の恥だから話したくなかったんだが、それでは納得できないだろうし説明させてもらうね」
そう言って話しはじめた店長の内容はまとめるとこうらしい。
スイーツの銀こと水菓子銀次は現在近くの老人ホームに入居していて、そこは完全看護の設備でまあ言い方は悪いがニ十四時間監視体制でいるそうだ。
お父さんは昔からの甘い物好きで、息子を菓子職人かパティシエにするのが夢であり、店長は期待通りその道に進んだので喜んていたそうな。
「まあオヤジの目当ては自分が食べたいスイーツを作る息子が欲しかったんだろうな」
息子を私物化するにも程があるが、運良く店長も菓子作りが好きな性格だったので銀の思惑通りになったのだが、事件が起きる。
店長が海外に修行中、いつもどおりスイーツ巡りしてパティシエに感想を言うなんて事をしてたお父さん。とあるお店で言ったひと言が運命を変える。
「兜塚さんて知ってるかな」
「あの世界的パティシエの兜塚さんですか」
「そう」
なんとお父さんは兜塚さんのスイーツにダメ出ししたらしい。
素人の戯言と聞き流せばいいのに、真面目な性格の兜塚さんはそれに真面目に取り組んで、あろうことかそれで自分の作品がレベルアップ、その結果世界的パティシエになってしまったのだ。
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