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 こういうご時世なので、人と人とが出会うこと、係わりを持っていくことは難しい。自分の周りに半径1メートルのシールドを作って生活していくことに次第に慣れ、距離を置いて暮らすことが当たり前になったことは、僕のように一歩引いた立ち位置で生きてきた人間にとってありがたいことだ、と佐倉夏生は思っている。  大学生になっての1年目は、世間で同情されるような状況が続いた。東京に出てきて一人暮らしを始めたのに、全ての授業はオンラインで行われ、サークルやバイトなどの大学生らしい生活は無かった。  ただ、それで孤独を感じていたかというとそんなことは全くないのだ。高校時代の友達とは当たり前にネットでつながっていたし、会ったことも無い大学の同級生とSNSで知り合って仲良くなったりしていた。男女問わずの知り合いとの程よい距離間のある交流は、むしろ居心地の良い沼だなと思うようになってきた。  2年生になり対面授業が再開されると、オンラインで通じていた知人はより仲良くなる奴もいれば、何となく縁が切れていく奴も出てきて、それはそれでよかった。夏生も、絵にかいたような大学生らしさというか、友人と都心まで出て食事をしたり、カーシェアで車を借りてドライブしたりで、何となく大学生って楽しいと思うことが増えてきた。  一方で、もう少し世間とも交わりたいとも思う。自由度が増えれば当然これでいいのかという気持ちが湧いてきて、経験を残したいと思うようになった。飲食店のバイトは、「今はダメ」と田舎の親から厳禁されている。なにか出来ることは無いかと検索していたら、ちょうどよいボランティアを見つけた。 週1日からでOKだったのも大きい。応募したら割と簡単に採用され、簡単な研修を受けた上で配属が決まった。自宅アパートから3つ先の駅から歩いて10分の所にある隣の市の小学校だ。これから毎週水曜日の午後は、スクールサポーターとして活動することになった。
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