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 夏生の水曜日は、朝イチで大学に向かうことから始まる。一コマ目に中国語演習があるがそれが済んでしまえばフリーなので、アパートの部屋に一旦戻ってから、小学校へ行くことになる。  駅のベーカリーでパンをいくつか買って、いつものように正午過ぎに学校のサポータールームに向かった。入室前には、ドア横に設置されたアルコールで手を消毒するルールになっている。もう一度マスクを整え直してからドアを開けた。  職員室に程近い教室を転用したサポータールームには、何人かの先輩サポーターさんたちが思い思いに昼食をとっていた。 「失礼します。今日もよろしくお願いします」 「はーい。こんちわー」 「佐倉君だー。今日もよろしくね」  年齢も性別もさまざまだけど、定年後の余暇利用のサポーターさんや子育て終了後の主婦サポーターさんが多いので、基本的に皆さん人当たりが良い。夏生は週1回午後からの参加だが、毎日活動している人もいる。 「佐倉君は、5年生の支援だっけ」  訊いてきたリーダー格の山田さんは、元看護師でサポーター歴5年目の主婦さんだ。自分の母親と同世代で、かなり面倒見の良い人。 「そうです。午後から2コマ、プログラミング授業の支援です」 「だいぶ慣れた?」 「いやー、教えるって本当に難しいですね。勉強することばかりです」 「教職志望だっけ?」 「違いますが、免許だけは取っておいても良いかと思ってます」  親世代のサポーターさんたちと話をするので、当たり障りのない話も上手くなってきたと思う。元々、誰かと話をするのは嫌いな方じゃない。 「私たち世代だと、パソコンとかプログラミングとか、よくわからないからなあ。佐倉君くらいの世代のサポーターは貴重だよ」 「小学生でも、俺たちより詳しかったりするもんな」  山田さんの隣に座っていた市原さんは、商社マンだった人で定年後に奥さんに勧められて英語授業のサポートをしている。一日中家にいて、所謂「ぬれ落ち葉族」になっていたのを一念発起して、2年前からサポーターを始めたんだと、初対面時の自己紹介の時に教えてもらった。毎回おいしそうな手作り弁当持参だ。  夏生もマスクを外し、買ってきたパンを食べながらサポーター用の連絡ファイルを眺め始めた。学校から保護者へ出された連絡事項などが綴られていて、仕事を始める前までに目を通すよう指示を受けている。今見る分に、自分に関わるようなことは特にないので少しほっとした。  世話好きの山田さんが、冷たい麦茶を入れてくれた。口をつけているとノック音が聞こえた。 「佐倉さん、もう来てるかな」
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