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 食べられるうちに晩飯を食おうということになり、パスタをゆでて一緒に食べていると、何となく体が重くなった。食後に夏生が正直に申告すると、高岡はさあ来たとばかりにいそいそと準備を始めた。  その晩、夏生はリビングのソファで眠り、高岡は寝室の自分のベッドで眠った。何かあっても気が付けるようにという配慮(?)の下、部屋の間のドアは開けたままにされたので、多分お互いの寝息が聞こえていたんだと思う。  寝息が聞こえる距離で誰かと一緒に寝ることなんて、夏生にとって高校の修学旅行以来のことで最初は少し緊張した。しかし、やはりそれなりの倦怠感があったのだろう。灯りを消したらすぐに眠ってしまった。  夜中に軽く目が覚めた。前と同じく、キッチンの灯りだけともした状態だったので、寝室の高岡の顔は見えないが、彼の気配がほんの少し離れたところに感じられるのが心地よく、夏生は目を閉じると自然に眠りに落ちていった。  夜中に眠りが浅くなった時、高岡が様子を見に来たのに気が付いた。額に手を当てて熱をみている。ひんやりした掌がきもちいい。高岡の手は夏生の前髪を掻き上げ、そのまま頭を2回撫でた。  撫でられても夏生がどうにか出来るわけもなく、ひたすら目を閉じたままで固まっていると、高岡の気配はすっと去っていき、触れられた掌の感触だけが残った。身体の奥の方に緩い電気のようなものが走り、鼻の奥がツンとした。  薄く目を開けて、彼がいる寝室の方を見つめてみた。そのまま呆としていると、次第に高岡の寝息が聞こえてきた。そのリズムに揺られたまま、夏生もいつの間にか目を閉じていた。  意識の中に浮かぶのは、いくつもの高岡の顔。授業のときの真剣な表情やふざけて笑う顔。拗ねたり、怒ったり、大人だったり、子供だったり。全部好きだと思う。髪を撫でられたとき苦しいほど胸が締め付けられた。このまま、この人の手が自分を掻き抱いて欲しい。隙間が無くなるほど全身で触れ合えたら。  距離を取れ、話をするな、触れ合うな。そういう言葉が聞こえる度、自分を縛ってきたと思う。都会での一人暮らしを始めるタイミングで起きた世界の変化で、多分自分は必要以上に頑張って、きちんとしなければならないと思い詰めていたと思う。たった一人で、自分が思っている以上に良い子でいて。  そんなことがあると思わなかった場所で知り合った人だ。先生と一つの部屋の中でご飯を食べたりテレビを見たりした。話をしてて凄く楽しい。手や脚が触れたりしたし、髪を撫でられた。男同士だけど、全然嫌じゃなかった。  もっと先を求めている自分がいる。自分を丸ごと受け留めて欲しい。夏生も、受け留めたいと思う。高岡が夏生に降り注いでくれている好意だけでなく、自分より長く生きていた中で起きた辛いことや悲しみも全部。これから起きることも。心ごと、身体ごと。
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