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結局、朝まで熱は出なかった。高岡に調子を尋ねられ、腕が痛くだるさが残っていることを素直に申告した。それなりに心配され、もう一日ここにいるかと訊かれたが、所詮はだるさなので家に帰って寝ますと言えば止められはしなかった。
ジャムトーストとヨーグルトの朝食を出してもらった。
「美味しい」
「美味しいって感じるなら、もう大丈夫かな」
良かったなと優しい目で微笑まれ、高岡を安心させることが出来たと思った自分が、さすがに健気すぎな感じがして、さらに気恥ずかしかった。
アパートまで送るよと言われたが、それは断った。寝汗をかいてジトッとなったTシャツをナップサックに詰めていると、高岡が皿を洗いながら鼻歌を歌っているのが聴こえてきた。存在を感じる、すぐ隣りにいる、自分の好きな人が。すごいことだ。体調が良くないと感慨深くなるんだなと、夏生は思った。
部屋から出るとき、マスクをした。ここからがソトになる。
マンションから出たところで振り返って高岡の部屋を見上げた。朝の日差しが眩しくて目を細めると、窓が開き高岡が顔を出す。軽く手を振られ、夏生も振り返した。
ありがとう先生。一緒にいてくれて心強かった。お節介、嬉しかったですよ。
なんだか、色々と初めてのことが起きていて本当に困ってしまった。
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