3/6
前へ
/46ページ
次へ
 ドアを開け、にゅっと顔を出したのは高岡先生だ。午後から入る5年2組の担任で、背が高くていつも朗らかな人。30歳くらいだろうか。 「はい。います」  軽く手を挙げて合図すると、先生は夏生の座っているデスクの傍まで来てしゃがみこみ、愛想のよい笑顔で見上げて話し始めた。  顔が近い。  慌てて、食事のために外していたマスクを急いで付けなおした。 「佐倉さん、食事済んだ? ちょっと早めなんだけど、一緒にパソコン室まで来てもらっていいかな。授業前の作業をしておきたいんだけど」 「わかりました。ここを片付けたらすぐに行けます」 「助かる。いつもありがとう」  手を合わせて拝まれるほどのことじゃないと思う。授業前の準備から手伝うのは当たり前。それでも高岡先生は自分たちサポーターに対して常に丁寧な応対をしてくれるので、皆から良い人認定を受けている。  そんな訳で、夏生が書類を片付けている間も山田さんが先生に対して何かと世話を焼きたがるのはいつものことだ。 「先生、お茶飲まれますか」 「はーい。遠慮なくいただきます」 「お菓子もありますよ。今日は野崎さん差し入れのマドレーヌ」 「いやー、そっちは給食を食べたばかりだから、ごめんなさい。またの機会にしますよ」 「大きいんだからケーキの1個くらい食べれるでしょ。持っていきなさいよ」  先生はポケットを抑えているが、山田さんが強引に突っ込もうとしている。二人とも笑いながらのおフザケだ。山田さんのような年齢の人からしたら、教員であっても息子を構うようにちょっと世話を焼きたいタイプなんだろうと思う。 「お待たせしました」  2人のじゃれあいを見ながら夏生が声をかけた。  高岡先生は山田さんにごちそうさまを言い、持っていた青いクリアファイルを夏生に手渡した。「佐倉さん、じゃあ行こうか」と促した。先生が指に引っ掛けている鍵の音がチャリと鳴った。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加