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台風が幾つか過ぎて、季節は本格的に秋になった。大学は対面授業が7割になり、ほぼ毎日通っている。オンライン授業主体の日々が長かったので、「毎日通う」という行為を忘れかけていて、身体を馴染ますのに時間が掛かった。授業に行けば話をする友人も増え、休みの日に一緒に買い物に出かけたり、小規模な内輪の飲み会に参加したりもした。
水曜の午後、小学校に行ってする今井先生の手伝いも相変わらずで、今井先生の淡々としつつも確実な授業の進め方は、サポートする側としてもやりやすかったので、ストレスなく続けられている。今井先生は、サポーターに対して大きな期待が無いので夏生も楽なのは間違いなく、頼まれている役目を確実にこなすことに集中していれば十分だった。
『焼肉』
こちらも相変わらずで、要件をまともに伝える気があるのかわからないようなメールが届いた。水曜日の晩飯のお誘い。隣りにいた山田さんがスマホを覗き込もうとするので、夏生は慌てて画面を消した。こんなタイミングで送ってくるなって思う。
「何?彼女から?」
「違いますよ。予定の連絡が入っただけです」
「いないの?彼女」
「いないですよ。そもそも知り合う機会がないですもん」
「そっかー。イケメンの持ち腐れだね」
「イケメンではないですよ」
山田さんに飴ちゃんを手渡され、口に入れてコリコリ噛んだ。よくわからないフルーツ味が食べ終わっても口に残っている。メールの返信をしなくては。
「何か買っていきましょうか」
『もやしとガリガリ君』
「何味希望ですか?」
『あれば梨』
「あれば、ですよ」
『りようかい』
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