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昨日の晩、おでんを煮込んだ。実家から送られてきた荷物の中に付け味噌のチューブが入っていたので、おでんに付けて食べたくなった。高岡にもそのことをメールで伝えたら、
「絶対行く」という返事が、速攻で返ってきた。
7時過ぎにチャイムが鳴った。ドアを開けると、いつもの高岡が立っていた。マスク無しの顔。6本セットのビールを下げ、学校帰りのそのままの服装だ。髪の毛が少し伸びすぎじゃないか、と思った。
「ただいま」
招き入れドアを閉めた瞬間キスされて、そう言われた。何と答えたら良いかわからなくて黙っていると、先生も困った顔になった。遠慮がちに「はい、お土産」と手に持っていたビールを渡されたので「ありがとうございます」と答えてみた。
貰ったビールをバラして冷蔵庫に入れていると、高岡もコンロのところにやってきて鍋のふたを開けた。
「すげーいい匂い。昨日から煮てるんだろ」
「味を染み込ませたいものは昨日から煮てますよ」
「あと何入れるの」
「ちくわや平天はさっき入れたから、最後にもち巾着を入れようかな。先生、そこにあるから入れてください」
先生は、はーいと返事して、まな板の上に置いてあった巾着を鍋に入れた。お玉で汁を回しかけている。夏生が冷蔵庫に入れる前の最後の1本のビールを渡すと、すぐにプルを開けて飲み始めた。
「こんな大きな鍋、よく持ってたなあ」
「でしょ。僕もそう思います」
「買ったの?」
「最初にこっちに来た時の荷物の中に勝手に入れられたんですよ。最初はイラネって思ったんですけど、意外と使えました。パスタ煮る時とか」
「親の愛だね」
先生はそう言って、ビールを飲みながら鍋の世話を続けた。
横に並んで二人で晩飯の準備をしているのが不思議だと思う。一体何してるんだろ僕は、と思うこともあるが、止める気はない。
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