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 夏生のこわばりが弛んだのを確認すると、口の中に強引に入ってきた高岡の舌は、夏生の舌を何度も掻き回してしびれさせたあと、穏やかに帰っていった。すぐにその場に置いてきぼりにされていた夏生の舌を、今度は唇でしごくように弄った。くちゅくちゅという音だけが頭中に響く。舌から唇が離れ、もう一度、唇と唇を合わせるようにキスをした。  抱き締められも、押し倒させもしなかった。顔と顔を寄り添わせ、掌を頬に当てたり、髪の毛を撫でたりしながら、お互いの口唇を堪能し続けた。  上あごを擽ってみる。軽く歯を当てられ逃げ出す。絡め合ってみたり探ったり。  途中で一瞬、口を離し目を合わせた。それがものすごい引力となって、唇を再び結び合わせた。溶け合ってしまいそうな熱量で、夏生は高岡の呼吸全部を飲み込んでいた。  ふと、キスの勢いが余って唇がずれ、高岡の頭が夏生の膝の上に落ちた。彼はそこから動かず、膝の上にうつぶせて「このままでいていい?」と訊いてきた。  ちょっと硬い高岡の髪を指で漉いてみる。伸びすぎかと思ったが、こうしているにはちょうどいい長さで、指の股を潜らせているとサワサワと心地いい。こうして触っていたら、ヒートし始めていた自分の身体がだんだん収まってきた。 「僕、先生の名前を知らないんです」  夏生がそういうと「うそだー」と言われた。ホントですと返した。 「名字だけ知ってます。」 「サトシ」 「サトシさん?」 「知るの下に日を書く『智』で、サトシ」 「いい名前ですね。雰囲気に合ってます」 「なんだそれ」 「褒めたんですよ」 「うそだぁ」  膝の上で頭が揺れて、プププと笑っている。 「先生、サトシさん」  名前を読んでみた。少し恥ずかしかった。 「うん」 「今度、お好み焼きしませんか」 「いいね。ホットプレート買うよ」  キスされた。  来週の水曜日、夏生はお好み焼き用の食材を持って高岡のマンションに行く自分を思った。キャベツと豚肉と卵にお好み焼きミックスセットとソースを買おう。  甘えられたのか、こっちが甘えたのか分からないけど、今日のところはここまで進んだ。  多分、自分も高岡にとっての『特別』なんだろうなと、確信できたような気がした。
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