128人が本棚に入れています
本棚に追加
「なっちゃん」
「サトシさん」
さすがに誰かさんのように「ただいま」とは言えなかったので、夏生は名前だけ呼んでみた。ただ、その響きが妙にしっくり馴染んでいるのに気をよくして、夏生は自分から高岡の唇を求めに動いていた。
今日は土曜日だ。水曜日に話が出て、先生は即刻ホットプレートを注文したらしい。翌日には届いたそうで、週末都合がつくなら会わないかとメールが来た。
二人とも自分でお好み焼きを焼くのは、初めてだった。案の定、1つ目は生焼けで、2枚目はひっくり返すときに失敗しちぎれて具がずれた。大笑いして食べたそれらは、ひたすら美味しかった。
せっかくホットプレートを買ったので、次は何を作るか考えるのが宿題になった。失敗してもいいのだから気楽だ。
「なっちゃん」
ソファに座わる高岡に呼ばれ、横に座ると、身体の芯にジンとくる声を囁かれる。火が灯る瞬間だ。
とうとう手を出されるのかなと、思った。
半年以上の付き合いで、いくつか分かってきたことがある。この人はとても臆病な人だ。
朗らかな外面に隠れた心情は弱気で、夏生の顔色を見て、悩みながら進む。強引なようで絶対に無理をしない。慎重に、失敗しないように。
夏生からしたら、もどかしいくらいで、なっちゃん呼びからキスまでの道のりは長かった。
土曜日に会うということは、そういうことかなと夏生は思っていた。だから、来る前に風呂に入ってきた。一応、男同士の知識も入れてきた。相当衝撃はあったけど、多分大丈夫だと思う。
顔を向けてみた。近づいて頬をくっつけてみる。腕を高岡の背に回し、触れてみた。
「なっちゃん」
耳に直撃する声が、吐息とともに夏生の性感を刺激した。回した腕に力が入り、寄り添いが深くなる。
「なっちゃん、好きって言って」
最初のコメントを投稿しよう!