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「何で?」
「言ってよ」
「いやだ。サトシさんから言わなきゃ、僕も言わない」
言葉遊びのつもりで聴きながら、いちゃいちゃと身体を触ってみた。硬いところと柔らかいところがある。
「なっちゃんから言って」
「言わない」
「もう」
高岡は夏生の耳たぶを軽く噛んだので、夏生は驚いて身体を離した。
「何するんですか。びっくりした」
高岡は、少し怯えたような顔になったような気がした。
「俺から先に言いたくない」
「何でですか。別にいいでしょう?」
「怖いから」
「え?」
「先に言うのが怖い」
「答えは分かっているでしょう?」
「それでも」
何かあったのか。
夏生の知っている心当たりは、今井先生たちの言っていた『いろいろあった』『大変だった』の話だ。それ以上は知らないけど。
「先生、サトシさん」
「なっちゃん」
「好きです、サトシさん」
頬に口づけてみた。高岡の身体の、柔らかいところだ。少し骨ばってごついけど、ふわっとしている。
「なっちゃん」
名前を何度も呼ばれた。夏生という名前で、自分のことを「なっちゃん」と呼ぶ人は沢山いる。でも、こんな情感で呼ぶ人はこの人だけだろう。
「大好きだと思う。だけど、今日は帰ります」
ええっ、と驚かれた。
帰ると言われ、高岡は半分傷ついたような表情になった。焦って何か言わなくてはと硬直しているさまを見た夏生は、そのまま彼の頭を腕いっぱいで抱きしめてみた。
「好きです。サトシさんのことをもっと知りたい。知ったうえで、先に進みたい」
腕の中の高岡は、身動ぎもせず何も言わない。この人、多分相当拗らせていて、かなり面倒くさい人かもしれない。
それでもいいと思った。そこまで込みで好きなんだと思う。思うからこそ、もっと高岡のことが知りたい。
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