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 2週間が経った。十一月に入るとすっかり秋めいてきて、そろそろ薄手のコートを出そうかなと思うようになってきた。  ゼミの発表まであと一か月を切り、指導教官からのダメ出し対応に追われたり、春休み期間に約束していたインターン先での有料バイトの話も正式なオファーを貰ったので紹介してくれた知人に挨拶をしたりで、てんてこ舞いの日々を過ごしていた。  高岡からのメールは無かったが、夏生は忙しさのおかげで気にならなかった。この前吐き出したので、すっきりしていたのもあるのだろう。もはや、どうにでもなれ、くらいの気分になっていた。  金曜日の夜は、大学から帰りが遅くなったので、駅飲み屋街の入り口にある中華料理屋で弁当を買った。以前、高岡と食べたエビチリ弁当は美味しかったが、今日はユーリンチー弁当にしてみた。あの頃は、飲み屋街も閉めている店が多かったが、今では半分以上の看板に灯が燈っている。持ち帰る間中、焦げたネギのいい匂いが漂っていた。  家に近づくと、玄関のドアノブに妙なものが掛けられているのが見えた。階段を上がりそこにあったものは、風船釣りのヨーヨーだった。  置いていった相手に心当たりがあり過ぎで、笑えてしまう一方で、相変わらず面倒くさいことをしてくるので、どうしてやろうかとも思う。  部屋に入り、弁当を食べているとSMSが入った。 『やる気満々のメールを考えた』 『なっちゃんとやりたくて、俺のキンタマのザーメンは風船ヨーヨーのように弾けそうになっています』 『ダメ?』 の3本が続けざまに入り、弁当を吹き出しそうになった。  きっと、死ぬほど悩んで、書いては消しの推敲した結果がこの下ネタメールなんだろうと思うと、愛しさしか無かった。 「高岡、アウト」 と書いて送ったら 『ケツバットで勘弁して』 と返事が来たので、夏生は自分から「今から行きます」と電話をかけた。三十分後に駅の向こう側にいる自分を想像しながら。
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